アムステルダム・コンセルトヘボウ公演でのカーテンコール(11月16日)
東京都交響楽団は、50周年記念事業として音楽監督・大野和士のもとヨーロッパ・ツアー(2015年11月13~23日)を行いました。これは長期海外ツアーとしては1991年のアメリカ・ツアー以来24年ぶりとなります。現地プログラムでは、1964年東京オリンピックを記念して設立された楽団によるツアーとして、「2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた文化的アクションとして行われている」と紹介されました。
ストックホルム、アムステルダム、ルクセンブルク、ベルリン、エッセン、ウィーンの計5ヵ国6都市における公演では、50周年記念委嘱作品である細川俊夫《嵐のあとに》をはじめ、ドビュッシー《海》、チャイコフスキー《交響曲第4番》、ラヴェル《スペイン狂詩曲》、プロコフィエフ《ヴァイオリン協奏曲第2番》、ラヴェル《ピアノ協奏曲》を演奏し、各公演いずれも聴衆からスタンディング・オベーションを受けました。
世界最高峰の舞台に立ち喝采を浴びた貴重な経験を、オーケストラのさらなる成長に活かしてまいります。
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指揮
大野和士(都響音楽監督) -
ヴァイオリン
ワディム・レーピン ◇ -
ピアノ
スティーヴン・オズボーン ○ -
ソプラノ
スザンヌ・エルマーク ☆ -
ソプラノ
イルゼ・エーレンス ☆
公演スケジュール
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- 11/13(金)
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ストックホルム・コンサートホール(スウェーデン)
ドビュッシー:交響詩《海》 -3つの交響的スケッチ
ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調 〇
チャイコフスキー:交響曲第4番 ヘ短調 op.36
- 11/16(月)
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アムステルダム・コンセルトヘボウ(オランダ)
ラヴェル:スペイン狂詩曲
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第2番 ト短調 op.63 ◇
チャイコフスキー:交響曲第4 番 ヘ短調 op.36
- 11/17(火)
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ルクセンブルク・フィルハーモニー(ルクセンブルク大公国)
ラヴェル:スペイン狂詩曲
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第2番 ト短調 op.63 ◇
細川俊夫:嵐のあとに -2人のソプラノとオーケストラのための(2015)☆※
ドビュッシー:交響詩《海》 -3つの交響的スケッチ
- 11/19(木)
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ベルリン・フィルハーモニー(ドイツ)
細川俊夫:嵐のあとに -2人のソプラノとオーケストラのための(2015)☆※
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第2番 ト短調 op.63 ◇
チャイコフスキー:交響曲第4 番 ヘ短調 op.36
- 11/21(土)
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エッセン・フィルハーモニー(ドイツ)
ラヴェル:スペイン狂詩曲
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第2番 ト短調 op.63 ◇
チャイコフスキー:交響曲第4 番 ヘ短調 op.36
- 11/23(月)
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ウィーン・コンツェルトハウス(オーストリア)
ドビュッシー:交響詩《海》 -3つの交響的スケッチ
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第2番 ト短調 op.63 ◇
チャイコフスキー:交響曲第4 番 ヘ短調 op.36
※細川俊夫《嵐のあとに》は、都響創立50周年記念委嘱作品で11/17は欧州初演、11/19はドイツ初演。
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ストックホルム・コンサートホールの外観
市内有数のショッピングエリアに面して建つ、青い外壁が印象的なストックホルム・コンサートホール。柱や内壁、ドアの装飾に至るまで、1926年建設の歴史を感じさせるホールです。
コンサートホールの芸術監督ステファン・フォースベリ氏から歓迎のスピーチをいただき、ソリスト、スティーヴン・オズボーンを迎えてリハーサルがスタート。
日本ではあまり知られていないかもしれませんが、素晴らしい音響のホールです。響きすぎず、ドライすぎず、どの楽器もクリアに聴こえ、しかも自然であたたかい響き。都響も、たちまちホールの響きを活かした見事なサウンドにまとまっていきました。
この日のプログラムは、ドビュッシー《海》、ラヴェル《ピアノ協奏曲》、チャイコフスキー《交響曲第4番》。アンコールはチャイコフスキー《弦楽セレナード》から「ワルツ」と、ボロディン《ダッタン人の踊り》。オズボーンの美しく鮮やかなピアノはもちろん、大野和士と都響の熱演に満員の聴衆はおおいに沸き、スタンディング・オベーションと大歓声に包まれました。コンサートホールの芸術監督フォースベリ氏からは「スウェーデンの聴衆がこんなに熱い反応をするのは珍しい」との賛辞。順調なスタートとなりました。ラヴェルのピアノ協奏曲を演奏するスティーヴン・オズボーン
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アムステルダム・コンセルトヘボウの外観
11/16(月)は、アムステルダム・コンセルトヘボウでの公演。リハーサルは、コンセルトヘボウのスポンサーや定期会員に公開されました。日本のオーケストラを初めて聴くという方も多かったらしく、終了後に何人もが大野和士に称賛の声をかけていました。
コンサートの冒頭では、11/13(金)にパリで起きたテロの犠牲者を悼み、J.S.バッハ《エア(G線上のアリア)》を献奏。フランス・リヨン歌劇場首席指揮者でもある大野和士も思いひとしおの面持ちでした。
本編は、ラヴェル《スペイン狂詩曲》で開始。鮮やかな色彩感と躍動感に聴衆も一気に引き込まれた様子。プロコフィエフ《ヴァイオリン協奏曲第2番》ではワディム・レーピンの華麗な独奏に沸き、後半のチャイコフスキー《交響曲第4番》の圧倒的なクライマックスに総立ちの拍手が贈られました。それに応えてのアンコールはチャイコフスキー《弦楽セレナード》から「ワルツ」。
世界で最も音の良いホールとも評されるコンセルトヘボウは、都響のサウンドをいっそう美しく響かせてくれました。オーケストラから鮮やかな色彩感を引き出す大野和士
1888年に建てられた歴史あるホール
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ルクセンブルク・フィルハーモニーの外観
11/17(火)はルクセンブルク公演。小さくても豊かな国であることを象徴するかのような、外観も内装もモダンで美しいフィルハーモニー(2005年開館)。バックステージには多くの来演アーティストの写真が飾られており、その中には大野和士の姿もあります。
開演前には、室内楽ホール(ここもまた美しいデザイン!)で細川俊夫氏のプレトークが催され、注目度の高さも実感。
この日はサントリーホールでの11/2(月)定期公演と同プログラム。フランス語が多く使用される国だけに、ラヴェル《スペイン狂詩曲》とドビュッシー《海》は聴衆にもおなじみの様子。大野と都響の奏でるフランス音楽はここでも大きな拍手を受けました。
ワディム・レーピンの独奏によるプロコフィエフ《ヴァイオリン協奏曲第2番》に続いて、細川俊夫《嵐のあとに》はヨーロッパ初演。美しい歌手2人がステージに現れたとたんに感嘆の声があがるなど、日本の現代音楽シーンではなかなか見られない光景も。フィルハーモニーの豊かでいてクリアな響きは、嵐の表現やテキストの内容を余すところなく客席に伝え、演奏にいっそうの深みと説得力をもたらしました。
盛り上がった本編に続き、アンコールはビゼー《アルルの女》から「ファランドール」。大野の猛烈な追い込みで曲が終わったとたんに場内は大歓声に包まれ、華やかなルクセンブルク公演の幕を閉じました。プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番を熱演するワディム・レーピン
開演前に室内楽ホールで行われた細川俊夫氏によるプレトーク
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ベルリン・フィルハーモニーの外観
11/19(木)はベルリン・フィルハーモニーでの公演。ハンス・シャロウン設計のこのホールは、竣工から50年以上経つ今も斬新で、足を踏み入れただけでも気持ちが引き締まるよう。
この日の公演は、細川俊夫《嵐のあとに》からスタート。若き日にこの地で学び、今やベルリン・フィルからも委嘱を受ける細川氏の新作発表とあって、音楽家のみならず作家、研究者、舞踏家、劇場支配人など各界で活躍する人々が駆けつけて細川氏を祝福していました。大野、エルマーク、エーレンス、都響による演奏は、すっかりこの曲を手の内にし、聴衆を魅了。素晴らしいドイツ初演となりました。
続くプロコフィエフ《ヴァイオリン協奏曲第2番》では、ワディム・レーピンの独奏が今までにも増してアクセル全開。オーケストラと水際立った丁々発止を繰り広げる名演となりました。そして、チャイコフスキー《交響曲第4番》は、大野&都響の高い性能と音楽性をベルリンの聴衆に印象付け、満場の喝采を呼ぶ圧巻のフィナーレ。大野は、何度目かのカーテンコールで拍手を制し、客席に向けて、武満徹の《3つの映画音楽》から「ワルツ~映画『他人の顔』より」とドイツ語でアンコールの曲名を告げ、聴衆の興味をひきつけ、この洒落た曲に注目してもらう見事な演出ぶり。そして最後はボロディン《ダッタン人の踊り》で豪快な締めくくり。会場を後にするお客様も笑顔でいっぱいの、記念すべき公演となりました。細川俊夫《嵐のあとに》ドイツ初演で、満場の拍手
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エッセン・フィルハーモニーの外観
11/21(土)の公演会場は、エッセンのフィルハーモニー。市立公園の一角に建ち、格調高い外観に、明るく現代的なデザインのホワイエとホールを備える美しい施設です。すぐそばにはアアルト劇場の名でも知られるエッセン歌劇場もあり、まさにここは市の音楽文化の中心地と言えます。
この日のコンサートでは、開演に先立ち、大野、レーピン、そして都響による演奏付きプレトークが開催されました。これは、エッセン・フィルハーモニー主催公演における恒例行事で、『Die Kunstdes Hörens(聴取の技法)』と名付けられています。今回はプロコフィエフ《ヴァイオリン協奏曲第2番》について、大野とレーピンがドイツ語で対話しながらの解説とともに、オーケストラも加わって曲の主題をあらかじめ演奏で紹介するという趣向。エッセンの聴衆はこのイベントへの関心が高いようで、早くから席につき、2人の話に耳を傾けていました。
本編のプログラムは、ラヴェル《スペイン狂詩曲》、プロコフィエフ《ヴァイオリン協奏曲第2番》、チャイコフスキー《交響曲第4番》。プロコフィエフの演奏後は拍手が鳴りやまず、これまでの公演同様アンコール演奏を予定していなかったレーピンでしたが、急遽弦楽器セクションに伴奏を依頼して、得意の《ヴェニスの謝肉祭》で期待に応えました。ホールの名物行事、プレトーク。大野&レーピンの解説に都響も演奏で参加
ホール内観は現代的なデザイン。音響も素晴らしい
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ウィーン・コンツェルトハウスの外観
11/23(月)。ヨーロッパ・ツアー最終公演はウィーンのコンツェルトハウスで。チケットはほぼ完売。
この日の曲目は、ドビュッシー《海》、プロコフィエフ《ヴァイオリン協奏曲第2番》、チャイコフスキー《交響曲第4番》。アンコールは武満徹《3つの映画音楽》から「ワルツ~映画『他人の顔』より」とボロディン《ダッタン人の踊り》。ツアーを通じて絆を深めてきた大野と都響の熱のこもった演奏は、ここでもあたたかく盛大な拍手をいただきました。
今回のヨーロッパ・ツアーの公演会場は、いずれも素晴らしいホールばかりでした。それぞれの特徴ある響きに驚き、感激するとともに、それらの響きがそれぞれを本拠にするオーケストラのサウンドを育んでいるのだということに改めて納得。そうした点も含め、大きな成果とともに、将来への課題も見つけることができ、意義あるツアーだったと感じています。
創立50周年にこうした機会と経験を得られたことに感謝し、ご協力くださった多くのみなさま、ご来場くださったお客様、そして日頃より都響を応援してくださるみなさまに心より御礼申し上げます。最終公演を終えて、大野とメンバーも充実した表情
演奏を終えた大野&都響
1913年に完成した世紀末様式のホール
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ヨーロッパ・ツアーを記念して作成したステッカー。メンバーの荷物やコンテナなどに貼られ、目印として使用しました
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ストックホルム公演のリハーサルより。心地よい緊張感の中で笑顔がこぼれる
(11月13日 ストックホルム・コンサートホール) -
指揮者室に飾られた多数のアーティスト写真の中には、都響常任指揮者だった故ジェイムズ・デプリーストも
(11月13日ストックホルム・コンサートホール) -
ストックホルム・コンサートホールに貼られていた都響公演のポスター
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欧州初演を控え、ソプラノ2人と作曲者の細川俊夫氏を交えた念入りな打合せ
(11月17日 ルクセンブルク・フィルハーモニー) -
「皆さま、本日はご搭乗まことにありがとうございます」 大野和士がワゴンサービスを行うサプライズに、機内は笑いの渦に(11月22日 ウィーン行きの機内にて)
現地新聞評より(一部抜粋)
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ルクセンブルク公演 ルクセンブルガー・ボルト紙(2015年11月19日付)
ルクセンブルク・フィルハーモニーホール、ニッポンに染まる
オーケストラのメンバーは抜群の集中力で各パートを聴かせ―これは終演まで変わらない―、緻密にして明快な音を紡ぎ上げていく。音楽的な流れは穏やかで、安定している。わずか半世紀の歴史しかないオーケストラ(中略)が揺るぎのない円熟さを見せつけ、今日ある音楽的な主張を一つにまとめあげてみせた。
(評:チエリ・イック)
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エッセン公演 ヴェストドイチェ・アルゲマイネ紙(2015年11月24日付)
東京のオーケストラがエッセンのフィルハーモニーに登場
日本の音楽家たちは、ダイナミックな轟音も聴かせ、チャイコフスキーではそれは少し過剰に響く。しかしラヴェルの「スペイン狂詩曲」は、この上なく美しい色彩の中で花開く。たとえ停滞するほどまでにテンポが揺れ動いたとしても、エキゾチックな色合いのあらゆるニュアンスを隅々まで堪能させる。
(評:マーティン・シュラーン)
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ウィーン公演 クローネン・ツァイトゥング紙(2015年11月25日付)
コンツェルトハウス、東京都交響楽団の祝賀コンサート
卓越した指揮者が正しく綿密にリードし、良く統率され、しっかりした集中力で色彩豊かに響くオーケストラである。(中略)その見事に組み込まれた効果で驚かせるという意味では、決して最高に洗練された演奏ではないだろう。しかし、この演奏は内に向かってまとまっており、良くバランスのとれている印象を受ける。
写真:堀田力丸(特記以外)
各公演のレポートは都響公式Facebook “都響ヨーロッパ・ツアーNews”より加筆修正し転載しています