大野和士
マーラー:交響曲第7番
(第972回B定期/2023年4月13日/サントリーホール)
第5回(最終回) 第1000回定期、そして未来へ
(2023年4月~2025年3月)
文/東条碩夫(音楽評論) Hiroo TOJO
『東京都交響楽団50年史』(2015年発行)に掲載した「東京都交響楽団50年演奏史」の続編として、2015年度以降の都響の歴史を振り返ります。「50年演奏史」と同じく東条碩夫氏にご寄稿いただきます。
【2023年度楽季】
音楽監督・大野和士の活躍が続く
例年通り、大野和士の指揮で開幕した2023年度楽季では、まず4月13日のB定期と、それに続く名古屋・大阪公演で、マーラーの第7交響曲が演奏された。この曲は大野が都響の音楽監督就任披露演奏会(2015年4月)で取り上げていたものでもあるが、8年の歳月がここまで両者を成熟させてきたのだと思わせるほど、さらに充実した演奏であった。また4月21日のA定期では、「東京オリンピック2020」を記念して委嘱され、2020年7月のA定期での世界初演が予定されながら延び延びになっていたターネジの《タイム・フライズ》の日本初演がやっと実現した(世界初演は、共同委嘱に名を連ねていたNDRエルプ・フィルが、アラン・ギルバートの指揮で2021年9月に行った)。なお大野は、10月のC定期でも、マグヌス・リンドベルイの《アブセンス~ベートーヴェン生誕250年記念作品》という珍しい曲を日本初演している。
この他、7月の「フェスタサマーミューザKAWASAKI」(シベリウスの第2交響曲など北欧もの)、10月の都響スペシャル(ドヴォルザークの第7交響曲 他)、12月A・C定期(ニコライ・ルガンスキーを招聘してのラフマニノフのピアノ協奏曲第1番 他)などを演奏した大野と都響は、2024年3月の新国立劇場におけるワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』において、畢生の快演を繰り広げた。それは極めて豊潤で夢幻的で、ヒューマンな温かみに富んだ表現で、第一級の『トリスタン』演奏と呼んでも過言ではないものだった。都響の弦の美しさも際立っていた。
この他、7月の「フェスタサマーミューザKAWASAKI」(シベリウスの第2交響曲など北欧もの)、10月の都響スペシャル(ドヴォルザークの第7交響曲 他)、12月A・C定期(ニコライ・ルガンスキーを招聘してのラフマニノフのピアノ協奏曲第1番 他)などを演奏した大野と都響は、2024年3月の新国立劇場におけるワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』において、畢生の快演を繰り広げた。それは極めて豊潤で夢幻的で、ヒューマンな温かみに富んだ表現で、第一級の『トリスタン』演奏と呼んでも過言ではないものだった。都響の弦の美しさも際立っていた。
アラン・ギルバート、エリアフ・インバル、小泉和裕の指揮
首席客演指揮者アラン・ギルバートは、7月の都響スペシャルとプロムナードコンサートにおいて、ニールセンの第5交響曲を一種怪奇な奥深い表現を駆使して指揮したほか、キリル・ゲルシュタインを迎えたラフマニノフのピアノ協奏曲第3番でもオーケストラの音色に豊かな陰翳を持たせ、巧みにソリストを盛り上げるという心憎い指揮を聴かせた。また別の日の都響スペシャルおよびA定期ではR. シュトラウスの《アルプス交響曲》を壮烈に指揮したが、この曲の前にモーツァルトのホルン協奏曲第4番を吹いたシュテファン・ドールがそのままオーケストラの1番ホルンとして加わる豪華な趣向もあった。なおギルバートは、この年の12月の《第九》の指揮にも迎えられ、人気のほどを示している。
いっぽう、桂冠指揮者エリアフ・インバルは2024年2月に登場。プロムナードコンサートではベートーヴェンとドヴォルザークの各第8交響曲という名曲プログラムだったが、B定期と都響スペシャルではバーンスタインの第3交響曲《カディッシュ》を作曲者オリジナルのテキストを使用して演奏(当初はピサール版テキストを予定、しかしこれを唯一語ることが許されているピサール夫人と令嬢の来日が不可能となったため、オリジナルテキストに変更された)、ピサール版を用いた2016年3月以来8年ぶりの《カディッシュ》として話題になった。さらにC定期と都響スペシャルでは極め付きのマーラーの第10交響曲(クック補筆版)をいささかも弛緩を感じさせぬ若々しい指揮で聴衆を沸かせている。
また、終身名誉指揮者・小泉和裕は、4月のC定期でメンデルスゾーンの《スコットランド交響曲》他、6月のプロムナードコンサートでベルリオーズの《幻想交響曲》他、10月B定期でブルックナー生誕200年に向けた第2交響曲、11月A定期でプロコフィエフの第5交響曲他を指揮するなど、例年通りスタンダードなレパートリーの分野を一手に引き受けている。
いっぽう、桂冠指揮者エリアフ・インバルは2024年2月に登場。プロムナードコンサートではベートーヴェンとドヴォルザークの各第8交響曲という名曲プログラムだったが、B定期と都響スペシャルではバーンスタインの第3交響曲《カディッシュ》を作曲者オリジナルのテキストを使用して演奏(当初はピサール版テキストを予定、しかしこれを唯一語ることが許されているピサール夫人と令嬢の来日が不可能となったため、オリジナルテキストに変更された)、ピサール版を用いた2016年3月以来8年ぶりの《カディッシュ》として話題になった。さらにC定期と都響スペシャルでは極め付きのマーラーの第10交響曲(クック補筆版)をいささかも弛緩を感じさせぬ若々しい指揮で聴衆を沸かせている。
また、終身名誉指揮者・小泉和裕は、4月のC定期でメンデルスゾーンの《スコットランド交響曲》他、6月のプロムナードコンサートでベルリオーズの《幻想交響曲》他、10月B定期でブルックナー生誕200年に向けた第2交響曲、11月A定期でプロコフィエフの第5交響曲他を指揮するなど、例年通りスタンダードなレパートリーの分野を一手に引き受けている。

アラン・ギルバート シュテファン・ドール(ホルン)
モーツァルト:ホルン協奏曲第4番
(都響スペシャル/2023年7月20日/東京文化会館)
多彩な客演指揮者、多彩なプログラム
この楽季における客演指揮者によるプログラムは、例年にも増して多彩を極めた。まず山田和樹が5月のA定期で「三善晃生誕90年・没後10年記念」として《レクイエム》《詩篇》《響紋》のいわゆる「反戦三部作」を、東京混声合唱団他の協演により指揮する。これも2020年5月に予定されながら、コロナ禍のため延期になっていた企画だった。当日はステージも客席も異様な盛り上がりを見せ、都響も打楽器陣を筆頭に激烈な咆哮を聴かせ、山田和樹の指揮とともに入魂の演奏を繰り広げて、三善晃が音楽にたたきつけた戦争への怒りを描き出していた。そして5月B定期には尾高忠明が(2021年3月に28年ぶりに協演を復活させて以来3年連続で)客演、得意のエルガーの第2交響曲他で円熟の指揮を披露すると、6月B・C定期にはマルク・ミンコフスキが客演(中止された2021年9月B定期の再スケジュール)、ブルックナーの第5交響曲を70分前後という快速テンポと端正な構築性で指揮し、ブルックナーの交響曲における古典性を提起してみせた。

山田和樹 東京混声合唱団、武蔵野音楽大学合唱団
三善晃:混声合唱とオーケストラのための《レクイエム》
(第975回A定期/2023年5月12日/東京文化会館)
9月にはサッシャ・ゲッツェルが客演、A定期でチャイコフスキーの第5交響曲などロシア・プロ、B定期ではコルンゴルトの《シンフォニエッタ》などを、しなやかな表現で指揮(指揮者交代となった2021年2月プロムナード、同年12月A定期の再スケジュール)。同月にはローレンス・レネスも客演、タベア・ツィンマーマンも協演(来日できなかった2021年9月A定期の再スケジュール)してプロムナードでモーツァルトのクラリネット協奏曲のヴィオラ編曲版を、C定期でサリー・ビーミッシュのヴィオラ協奏曲第2番《船乗り》を日本初演するという意欲的なプログラムを披露する。そして10月A定期に登場したオスモ・ヴァンスカ(中止された2020年11月A・C定期の再スケジュール)によるシベリウスの交響曲第5、6、7番はまさに究極と言うべく、陰翳と緊迫感に富む演奏で聴衆を熱狂させたのだった。
新鮮なプログラミングはさらに続く。11月C定期にはジョン・アクセルロッドが登場し、ショスタコーヴィチの第5交響曲に併せてシルヴェストロフの《沈黙の音楽》を演奏(アクセルロッドは2021年12月A定期と2022年2月プロムナードに代役で登場、公演中止の危機を救っていた)。また12月のプロムナードコンサートは大友直人が指揮、上野耕平がデュビュニョンに委嘱したアルトサクソフォン協奏曲《英雄的》を、上野自身のソロとともに世界初演する(中止された2022年1月プロムナードの再スケジュール)。続く12月B定期ではアントニ・ヴィトがペンデレツキの第2交響曲《クリスマス・シンフォニー》やキラールの《前奏曲とクリスマス・キャロル》を指揮(演奏者&曲目変更となった2021年12月B定期の再スケジュール)、さらに2024年1月A・B定期ではジョン・アダムズが客演(日本のオーケストラを初めて指揮)して自作の《アイ・スティル・ダンス》《アブソリュート・ジェスト》《ハルモニーレーレ》を指揮するという具合であった。
こう見てくると、大野和士音楽監督が就任時に宣言した通り、都響のレパートリー開拓路線は、見事に実現されたと言うべきであろう。ちなみに、2023年8月の「湯浅譲二 作曲家のポートレート~アンテグラルから軌跡へ」でも都響は杉山洋一の指揮で、ヴァレーズ、クセナキス、湯浅譲二の大規模な作品を演奏しているのである。
なおこの他、2024年1月C定期では下野竜也が指揮、ブルックナーの第1交響曲をウィーン版で演奏した。

山田和樹 東京混声合唱団、武蔵野音楽大学合唱団
三善晃:混声合唱とオーケストラのための《レクイエム》
(第975回A定期/2023年5月12日/東京文化会館)
新鮮なプログラミングはさらに続く。11月C定期にはジョン・アクセルロッドが登場し、ショスタコーヴィチの第5交響曲に併せてシルヴェストロフの《沈黙の音楽》を演奏(アクセルロッドは2021年12月A定期と2022年2月プロムナードに代役で登場、公演中止の危機を救っていた)。また12月のプロムナードコンサートは大友直人が指揮、上野耕平がデュビュニョンに委嘱したアルトサクソフォン協奏曲《英雄的》を、上野自身のソロとともに世界初演する(中止された2022年1月プロムナードの再スケジュール)。続く12月B定期ではアントニ・ヴィトがペンデレツキの第2交響曲《クリスマス・シンフォニー》やキラールの《前奏曲とクリスマス・キャロル》を指揮(演奏者&曲目変更となった2021年12月B定期の再スケジュール)、さらに2024年1月A・B定期ではジョン・アダムズが客演(日本のオーケストラを初めて指揮)して自作の《アイ・スティル・ダンス》《アブソリュート・ジェスト》《ハルモニーレーレ》を指揮するという具合であった。
こう見てくると、大野和士音楽監督が就任時に宣言した通り、都響のレパートリー開拓路線は、見事に実現されたと言うべきであろう。ちなみに、2023年8月の「湯浅譲二 作曲家のポートレート~アンテグラルから軌跡へ」でも都響は杉山洋一の指揮で、ヴァレーズ、クセナキス、湯浅譲二の大規模な作品を演奏しているのである。
なおこの他、2024年1月C定期では下野竜也が指揮、ブルックナーの第1交響曲をウィーン版で演奏した。

ジョン・アダムズ エスメ弦楽四重奏団
ジョン・アダムズ:アブソリュート・ジェスト
(第993回A定期/2024年1月19日/東京文化会館)
【2024年楽季】
定期演奏会1000回記念シリーズ
6月4日の「第1000回定期」を記念し、4~8月の定期は「定期演奏会1000回記念シリーズ」と銘打った11回におよぶプログラムが組まれた。
まず4月のB定期では、大野和士がブルックナーの第3交響曲(第2稿)を指揮したほか、アルマ・マーラーの《7つの歌》をD. & C. マシューズ編曲版で日本初演。同月C定期では小泉和裕がシューベルトの交響曲《未完成》と《ザ・グレート》を指揮。5月A定期には、同年12月に引退を予定していた井上道義が客演、ベートーヴェンとショスタコーヴィチの各第6交響曲を指揮し、これが都響にとっての彼との最後の協演となる。5月のC定期には尾高忠明が登場、武満徹の《3つの映画音楽》抜粋とウォルトンの第1交響曲という得意のレパートリーを披露した。

小泉和裕
シューベルト:交響曲第8番《ザ・グレート》
(第997回C定期/2024年4月27日/東京芸術劇場)
そして6月4日の記念すべき第1000回定期にあたるB定期、および翌日の第1001回C定期では、エリアフ・インバルが特に来日して指揮した。当日はブルックナー生誕200年記念企画を含めた交響曲第9番が、同曲の2021-22年SPCM(サマーレ・フィリップス・コールス・マッツーカ)版第4楽章(日本初演)を付加して演奏され、ブルックナー愛好家たちの熱狂的な支持を集めた。C定期終演後には来日していた校訂者ジョン・A・フィリップスとインバルによるアフタートークも行われ、会場に残った多くの聴衆が耳を傾けた。

エリアフ・インバル
ブルックナー:交響曲第9番(2021-22年SPCM版*第4楽章付き)[*日本初演]
(第1001回C定期/2024年6月5日/東京芸術劇場)
そのあと、6月のC定期・都響スペシャルでは、かつて首席客演指揮者を務めたヤクブ・フルシャが7年ぶりに都響と協演、生誕200年記念のスメタナの歌劇『リブシェ』序曲、みずから編曲したヤナーチェクの歌劇『利口な女狐の物語』大組曲、ドヴォルザークの第3交響曲という意欲的なプログラムを指揮した。また彼は7月のB定期・都響スペシャルでも、ブルックナーの第4交響曲《ロマンティック》を、コーストヴェット校訂による1878/80年版で演奏した。フルシャの人気は今なお高く、2020年12月B定期で予定されながらコロナ禍のため中止になったドヴォルザークの「4つの交響詩」のプログラムがいまだ実現していないのは惜しまれよう。
7月C定期・都響スペシャルにはアラン・ギルバートが登場。樫本大進(ヴァイオリン)とアミハイ・グロス(ヴィオラ)をソリストに迎え、生誕150年にあたるアイヴズの《コンコード交響曲》(ブラント編曲)からの「オルコット家の人々」という珍しい曲を指揮したが、彼はまたA定期・都響スペシャルでも、リンドベルイの《EXPO》やトゥビンのコントラバス協奏曲(ソリストは池松宏)など意欲的なレパートリー拡大をここでも示していた。そして、「定期演奏会1000回シリーズ」の最終回にあたる8月のB定期・都響スペシャルでは、ダニエル・ハーディングが都響へ初登場し、ニカ・ゴリッチ(ソプラノ)を迎えてベルクの《7つの初期の歌》と、マーラーの第1交響曲《巨人》を演奏した。
なおこの間、4月のプロムナードコンサートでは、ペッカ・クーシストが初めて指揮者として登壇。ヴィヴァルディの《四季》(弾き振り)とベートーヴェンの第7交響曲でユニークな演奏を聴かせ、話題を呼んだが、これがのちに彼がシェフに迎えられるきっかけとなる。
まず4月のB定期では、大野和士がブルックナーの第3交響曲(第2稿)を指揮したほか、アルマ・マーラーの《7つの歌》をD. & C. マシューズ編曲版で日本初演。同月C定期では小泉和裕がシューベルトの交響曲《未完成》と《ザ・グレート》を指揮。5月A定期には、同年12月に引退を予定していた井上道義が客演、ベートーヴェンとショスタコーヴィチの各第6交響曲を指揮し、これが都響にとっての彼との最後の協演となる。5月のC定期には尾高忠明が登場、武満徹の《3つの映画音楽》抜粋とウォルトンの第1交響曲という得意のレパートリーを披露した。

小泉和裕
シューベルト:交響曲第8番《ザ・グレート》
(第997回C定期/2024年4月27日/東京芸術劇場)

エリアフ・インバル
ブルックナー:交響曲第9番(2021-22年SPCM版*第4楽章付き)[*日本初演]
(第1001回C定期/2024年6月5日/東京芸術劇場)
7月C定期・都響スペシャルにはアラン・ギルバートが登場。樫本大進(ヴァイオリン)とアミハイ・グロス(ヴィオラ)をソリストに迎え、生誕150年にあたるアイヴズの《コンコード交響曲》(ブラント編曲)からの「オルコット家の人々」という珍しい曲を指揮したが、彼はまたA定期・都響スペシャルでも、リンドベルイの《EXPO》やトゥビンのコントラバス協奏曲(ソリストは池松宏)など意欲的なレパートリー拡大をここでも示していた。そして、「定期演奏会1000回シリーズ」の最終回にあたる8月のB定期・都響スペシャルでは、ダニエル・ハーディングが都響へ初登場し、ニカ・ゴリッチ(ソプラノ)を迎えてベルクの《7つの初期の歌》と、マーラーの第1交響曲《巨人》を演奏した。
なおこの間、4月のプロムナードコンサートでは、ペッカ・クーシストが初めて指揮者として登壇。ヴィヴァルディの《四季》(弾き振り)とベートーヴェンの第7交響曲でユニークな演奏を聴かせ、話題を呼んだが、これがのちに彼がシェフに迎えられるきっかけとなる。

ペッカ・クーシスト
ベートーヴェン:交響曲第7番
(プロムナードコンサートNo.407/2024年4月21日/サントリーホール)
エリアフ・インバル指揮の《バービイ・ヤール》もついに実現
9月A・C定期で大野和士が指揮したブルックナーの第7交響曲は、瑞々しい弦と剛直な金管が際立つ見事な演奏で、彼と都響の好調ぶりが如実に示された演奏であった。これに続き9月のプロムナードコンサートでは、藤岡幸夫が得意の吉松隆の《鳥たちの時代》を指揮。10月にはライアン・ウィグルスワースが客演し、A定期でシェーンベルクの《5つの管弦楽曲》や武満徹の《アステリズム》、プロムナードコンサートでベートーヴェンの《英雄交響曲》他という対照的なレパートリーを披露する。また同月B定期でマーティン・ブラビンズが指揮した3曲――エルガーの序曲《南国にて》、フィンジのクラリネット協奏曲(ソリストはアンネリエン・ファン・ヴァウヴェ)、ヴォーン・ウィリアムズの第9交響曲というプログラムは、すべて都響にとっては初演奏という面白い例となった。
一方、2025年1月に初客演したのは、長老のレナード・スラットキンである。B定期と都響スペシャルではラフマニノフの第2交響曲などを取り上げたが、実に温かい、心が和むような、しかも壮大な気宇にあふれた指揮であった。
なお、11月のB定期でシェーンベルク生誕150年記念としての《ペレアスとメリザンド》、12月には久しぶりに「第九」を指揮した小泉和裕は、1月A定期にも登場し、ドビュッシーの《海》他を取り上げている。
2025年2月には、A定期・都響スペシャルにエリアフ・インバルが登場、ラフマニノフの《死の島》とショスタコーヴィチの交響曲第13番《バービイ・ヤール》を指揮した。後者の演奏は過去2回の中止(2021年1月、2022年3月)を経てやっと実現したもので、話題を呼んだ。バス歌手グリゴリー・シュカルパとエストニア国立男声合唱団も協演した演奏は、あたかも怒りをたたきつけるように激しく、これまでは歴史上の出来事として受容していたこの交響曲の歌詞と音楽が、再び世界に戦争の足音が轟きはじめている今日この頃、リアルな不気味さをもって迫り来るような趣を感じさせたものであった。
一方、2025年1月に初客演したのは、長老のレナード・スラットキンである。B定期と都響スペシャルではラフマニノフの第2交響曲などを取り上げたが、実に温かい、心が和むような、しかも壮大な気宇にあふれた指揮であった。
なお、11月のB定期でシェーンベルク生誕150年記念としての《ペレアスとメリザンド》、12月には久しぶりに「第九」を指揮した小泉和裕は、1月A定期にも登場し、ドビュッシーの《海》他を取り上げている。
2025年2月には、A定期・都響スペシャルにエリアフ・インバルが登場、ラフマニノフの《死の島》とショスタコーヴィチの交響曲第13番《バービイ・ヤール》を指揮した。後者の演奏は過去2回の中止(2021年1月、2022年3月)を経てやっと実現したもので、話題を呼んだ。バス歌手グリゴリー・シュカルパとエストニア国立男声合唱団も協演した演奏は、あたかも怒りをたたきつけるように激しく、これまでは歴史上の出来事として受容していたこの交響曲の歌詞と音楽が、再び世界に戦争の足音が轟きはじめている今日この頃、リアルな不気味さをもって迫り来るような趣を感じさせたものであった。
大野和士、頸椎手術の療養から復帰
ところで、2024年12月のA・B定期でショスタコーヴィチの第8交響曲などを指揮する予定だった大野和士は、頸椎の手術のため降板(ロバート・トレヴィーノが代役を務めた)し、療養を続けていたが、2025年3月にはめでたく復帰した。A定期で《悲愴交響曲》のほか、シュテファン・ドールをソリストに迎えてイェルク・ヴィトマンのホルン協奏曲を日本初演したが、この協奏曲は都響(創立60周年記念企画)をはじめベルリン・フィル等6楽団の共同委嘱によるもの。当初は25分程度と予想されていたその演奏時間がなんと40分にも達すると判明、予定されていたベートーヴェンの『レオノーレ』序曲第3番がやむを得ずプログラムからカットされた、という一幕もあった。
※音楽監督・大野和士(2015年4月就任)は、2026年3月の任期満了をもって音楽監督を退任し、2026年度から2年間芸術顧問として引き続き都響指揮者陣を代表し、2028年度からは桂冠指揮者を務めます。
※音楽監督・大野和士(2015年4月就任)は、2026年3月の任期満了をもって音楽監督を退任し、2026年度から2年間芸術顧問として引き続き都響指揮者陣を代表し、2028年度からは桂冠指揮者を務めます。
![イェルク・ヴィトマン:ホルン協奏曲(2024)[日本初演]](../img/history05/pic-08.jpg)
大野和士 シュテファン・ドール(ホルン)
イェルク・ヴィトマン:ホルン協奏曲(2024)[日本初演]
(第1017回A定期/2025年3月14日/東京文化会館)
写真©堀田力丸
