プロムナードコンサートNo.407 │ 東京都交響楽団

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出演

指揮・ヴァイオリン／ペッカ・クーシスト

ペッカ・クーシスト　Pekka KUUSISTO（アーティスト・イン・レジデンス）

ヴァイオリニスト、指揮者、作曲家であるペッカ・クーシストは自由な芸術性、レパートリーへの新鮮なアプローチで知られている。
現在、ノルウェー室内管弦楽団芸術監督、ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団首席客演指揮者兼芸術共同監督、エーテボリ交響楽団首席客演指揮者、ドイツ・カンマ―フィルハーモニー管弦楽団アーティスティック・ベスト・フレンド。
これまでにロサンゼルス・フィルハーモニック、ボストン交響楽団、シカゴ交響楽団、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、東京都交響楽団、ドイツ・シンフォニー・オーケストラ・ベルリン、スコットランド室内管弦楽団など、世界各国の主要オーケストラにソリストや客演指揮者として出演。都響とは2023年1月にソリストとして初共演し、2024年4月には指揮者として共演。
現代音楽と即興演奏の熱心な提唱者として、多様な背景を持つアーティストと協働し、ジャンルの従来の境界線を曖昧にするプロジェクトに取り組んでいる。
2026年4月より都響のアーティスト・イン・レジデンスをつとめ、2028年4月に都響首席指揮者に就任予定。
1976年フィンランド・エスポー生まれ。

曲目

ヴィヴァルディ：ヴァイオリン協奏曲集《四季》op.8 no.1-4

曲目解説
ベートーヴェン：交響曲第7番イ長調 op.92

曲目解説

ヴィヴァルディ：ヴァイオリン協奏曲集《四季》op.8 nos.1-4

バロックの精華にして前衛

　音楽史で「バロック」と呼ばれる17～18世紀半ばは、ヴァイオリンの時代である。
　ヴァイオリンは16世紀に登場し、この時代にほぼ完成した。完成に貢献したのは、17世紀から18世紀前半にかけて北イタリアのクレモナに工房を構えたアマティ一族やアントーニオ・ストラディヴァリ（1644?～1737）といった優れた製作者たちである。彼らが手がけた瓢箪型の楽器は、装飾や即興を施されながら舞う1本の旋律の限りない可能性を開拓する魔法の器になった。
　バロックは、オペラの時代でもある。
　オペラは1600年前後にイタリアで生まれ、やがて「歌」の饗宴となった。ここでもまた「歌」という1本の旋律の可能性が、即興や装飾をちりばめながら開拓されたのである。
　ヴァイオリンと歌は似ている。19世紀に完成した、或いは発展を遂げたピアノとオーケストラが似ているように。歌とヴァイオリンが1本の旋律を追求するのに対し、ピアノとオーケストラは旋律と伴奏を一手に引き受ける。音楽のかたちが変わるのもうなずける。

　アントーニオ・ヴィヴァルディ（1678～1741）は、ヴァイオリンとオペラを含むあらゆるジャンルに大量の作品を遺した、バロックを代表する作曲家である。故郷であり人生の大半を過ごしたヴェネツィアはオペラの本場であり、彼が長年勤めた女子孤児院などでのコンサート活動も盛んだった。ヴァイオリンの名手だったヴィヴァルディは、独奏楽器が華麗に活躍し、「急－緩－急」の3楽章で構成される「独奏協奏曲」という形式を極めた。この形式は「協奏曲」のスタンダードとなり、後の古典派、ロマン派に受け継がれる。
　ヴィヴァルディの「独奏協奏曲」はヨーロッパを席巻し、「音楽の国」イタリアのシンボルとなった。あのヨハン・セバスティアン・バッハもこの形式を大いに気に入り、ヴィヴァルディの協奏曲をオルガンやチェンバロ用に編曲している。
　《四季》はヴィヴァルディの独奏協奏曲を代表する作品であり、独奏ヴァイオリンの超絶技巧、3楽章形式による独奏協奏曲、オペラに由来する絵画的な性格を併せ持つ、「バロックの精華」と言える作品である。正確には《四季》というタイトルは存在せず、当時の出版の中心地アムステルダムで1725年に出版された協奏曲集『和声と創意の試み』（全12曲）の冒頭に置かれた「春」「夏」「秋」「冬」の4曲をまとめてそう呼んでいる。
　目新しいのは、この4曲に、内容を説明する「ソネット」（14行で構成されるイタリア語の定型詩）が付いていることだ（P. 36～37参照）。作者の名はないが、おそらくヴィヴァルディ本人によるものと推定される。というのも、ソネットの内容は音楽と完全にリンクしているのだ。ここで展開されるのは、音楽による風景と人物の描写である。ヴァイオリンやオーケストラ（「トゥッティ＝総奏」と呼ばれる）は、雷になったり雪を降らせたり、眠れる羊飼いや獲物を追う狩人になるのだ。
　そもそもオーケストラのルーツの一つは歌劇場の楽団であり、劇中の風景描写はオーケストラに任されていた。《四季》に頻出する「嵐の音楽」は、歌劇場のオーケストラが腕前を披露する場面だった。《四季》の音楽の一部がオペラからの転用であるのは、偶然ではない。このような描写を託されたことで、オーケストラの表現力は飛躍的に拡大した。
　《四季》は、ただ美しく耳に快いだけの作品ではない。バロック的であると同時に、革新的な音楽でもあるのだ。

ヴァイオリン協奏曲ホ長調 op.8-1「春」
　第1楽章（アレグロ）独奏ヴァイオリンとヴァイオリンが模倣する、鳥の囀りや泉の流れが快い。
　第2楽章（ラルゴ）独奏ヴァイオリンが山羊飼いの眠りを、ヴァイオリンが草木のそよぎを、ヴィオラが犬の息遣いを奏でるのどかな情景。
　第3楽章（アレグロ）付点リズムとトリルが特徴的な踊りの音楽。

ヴァイオリン協奏曲ト短調 op.8-2「夏」
　第1楽章（アレグロ・ノン・モルト～アレグロ）気怠い下降音型で描写される疲れ果てた人々と草木に、独奏ヴァイオリンが鋭いカッコウの声で活を入れる。
　第2楽章（アダージョ～プレスト）独奏ヴァイオリンが憐れむ疲れ果てた羊飼いに、雷や虫の群れが襲いかかる。
　第3楽章（プレスト）独奏もオーケストラも一体になっての激しい嵐の描写。

ヴァイオリン協奏曲ヘ長調 op.8-3「秋」
　第1楽章（アレグロ～ラルゲット～アレグロ・アッサイ）陽気な舞曲の合間に、独奏ヴァイオリンが酔っぱらいの千鳥足を挟み込む。
　第2楽章（アダージョ・モルト）弱音器付きの弦楽器が奏でる、甘い眠りの情景。
　第3楽章（アレグロ）心弾む狩りの道行きに、独奏ヴァイオリンによる逃げ惑う獣、ヴァイオリンやヴィオラによる銃や犬の音が混じる。

ヴァイオリン協奏曲ヘ短調 op.8-4「冬」
　第1楽章（アレグロ・ノン・モルト）スタッカートや同音反復が、雪や風をリアルに描写する。
　第2楽章（ラルゴ）独奏ヴァイオリンによる暖炉のそばでの幸せと、ヴァイオリン・パートのピッツィカートが示す慈雨との美しい音画。
　第3楽章（アレグロ～レント～アレグロ）凍てつく日の散歩の情景は、駆け巡る独奏ヴァイオリンと同音反復を繰り返すオーケストラでダイナミックに締め括られる。
（加藤浩子）

※ヴィヴァルディ《四季》の楽譜には随所に情景を描写する詩句が記入され、それをまとめるとソネット（14行の定型詩）になる。ソネットは「2つの4行連（前半）」＋「2つの3行連（後半）」から成り、イタリア語の原詩では連の中で1行または2行おきに脚韻を踏んでいる。

作曲年代	1716～1720年頃？
初　　演	不明
出　　版	1725年　アムステルダム
楽器編成	第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、通奏低音、独奏ヴァイオリン

ベートーヴェン：交響曲第7番イ長調 op.92

　1808年に交響曲第5番と第6番を完成させた後、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン（1770～1827）はしばらく交響曲のジャンルから遠ざかる。交響曲に限らず、生み出す作品数そのものも一時期かなり少なくなっているのは、フランス軍のウィーン侵攻といった状況もあったようだが、動機労作による徹底した展開法とスケール豊かな構成を結び付けた中期の様式を究め尽くし、一方で聴覚の衰えが一層進行したことなどによる内面の変化が、彼を新しい作風の模索へ向けていったことも大きかったと思われる。
　そして1811年終わりから1812年前半にかけて、ベートーヴェンはほぼ4年ぶりに交響曲の作曲に取り組み、交響曲第7番を生み出した（推敲は1813年初頭になされたようだ）。それは、中期に究めた動機の徹底的な展開法をリズム動機に応用し、一定のリズム・パターンに固執することでひとつの大交響曲を作り上げる、という画期的な手法によるものとなった。リズムの持つ根源的な力を生かし、全体にわたって舞踏的ともいえる躍動性が横溢する作品で、ワーグナーがこの交響曲を「舞踏の神格化」と評したことは有名である。
　一方この時期のベートーヴェンは、中期における動機中心の隙のない緊密な構築法から離れて、伸びやかな旋律のカンタービレを重んじる傾向を示すようになっていた。交響曲第7番も、旋律はそうした性格を示しており、伸びやかな旋律性と躍動するリズムが結び付くことによって、作品はきわめて明るい開放感に満ちたものとなったのである。このような舞踏的リズムと明快な旋律ゆえに、交響曲第7番は当時の聴衆からも直ちに受け入れられ、1813年12月8日ウィーン大学の講堂で開かれた傷病兵義援金のための慈善演奏会における初演では、第2楽章がアンコールされるなど、大きな成功を収めている。

　第1楽章　ポーコ・ソステヌート～ヴィヴァーチェ　イ長調　4分の4拍子による序奏が置かれているが、これは2つの楽想を持つきわめて長大なものである。やがて一転、付点リズムが木管で奏されて8分の6拍子によるソナタ形式の軽快な主部となり、その付点リズムの支配のうちに躍動的な展開が繰り広げられる。
　第2楽章　アレグレット　イ短調　この楽章では「タータタ・ターター」という行進曲風のリズムが一貫して用いられていく。イ短調の主部に対してイ長調のエピソードを対照させたりフガートによる展開部分を挟んだりするとともに、各部分も常に変奏を施すことによって変化をつけるなど、同一的なリズムが繰り返されながらも決して単調に陥ることがないよう、うまく工夫されている。本来は歌謡的な緩徐楽章となるべき第2楽章が、リズム中心のアレグレット楽章となっているところに、この交響曲の特徴が窺える（ちなみにほぼ同時期に書かれた交響曲第8番も、全く異なった手法ながら同じくリズムに重きを置いた作品で、やはり緩徐楽章を欠く）。
　第3楽章　プレスト　ヘ長調　跳びはねるようなスケルツォの主部と、長い持続音を持つ伸びやかなトリオ（アッサイ・メーノ・プレスト、ニ長調）が「Ａ―Ｂ―Ａ―Ｂ―Ａ」の形で配される。
　第4楽章　アレグロ・コン・ブリオイ長調　まさしくリズムの乱舞といってよいような、エネルギッシュに邁進するソナタ形式のフィナーレで、興奮の渦の中で大きな高揚を作り上げていく。
（寺西基之）

作曲年代	1811～12年
初　　演	1813年12月8日　ウィーン　作曲者指揮
楽器編成	フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦楽5部

【ソリスト・アンコール】（4/21up）
Finnish Traditionals："Kopsin Jonas" "valssi Vihdistä"
　（ヴァイオリン／ペッカ・クーシスト）

プロムナードコンサートNo.407は当日券も含め完売いたしました。チケットをお持ちのお客様はお忘れなくご来場くださいませ。（4/21up）

聴きどころ

著名なヴァイオリニストにして、ヘルシンキ・フィル首席客演指揮者を務めるなど指揮者としても活躍するペッカ・クーシストが、自らソロも執りつつ、指揮者として日本デビューを飾るコンサートです。ソリストとして出演した2023年1月A定期（シベリウスVn協奏曲）で披露した自然体で軽やかな音楽とフレンドリーな人柄そのままに弾き、そして振るヴィヴァルディとベートーヴェンは、クーシスト・ファンならずとも楽しめること請け合いです。